二人三脚をしたのは、もう何十年も前の運動会のときだったと思いますが、もしかすると僕たちは生まれてから死ぬまでの間、ずっと二人三脚をしているのではないか。
そんなことがふと頭に浮かびました。
一体誰と? いつ? どこで? と、思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
答えは、いつも僕が言っている自分自身と本当の自分です。
本当の自分とは、二十四時間、365日ずっと一緒で、どこに隠れても逃げられません。とにかく常に隣で肩をくんでいるわけです。
生まれたばかりのときの二人は考え方も行動も一致してますが、成長していくにつれ、親や学校、近所の人たち、職場など周りからの影響によって、どんどんと二人に差が出来てくるのです。
二人三脚では、二人が息を合わせて走らなければ前に進むどころか、倒れてしまうこともあります。
病気になったり、人間関係が悪くなって悩んでしまう原因はそんなところに潜んでいるのかも知れません。
全速力でゴールを目指す必要はありませんが、少なくとも硬く結ばれた足首に負担がかからないように息を合わせることが必要だと感じています。
それが一番楽に生きていく為の方法だと思うからです。
300字小説 第233回
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『梅田の夜』
駅前第四ビルの辺りまで来たときに、零次さんは事務所に戻ると告げ、後ろを振り返りもせず右手を挙げて歩いて行った。くたびれたサラリーマンのような後姿が印象的だった。
スマホの時計は午前一時を過ぎている。僕は人の流れがある方向へ、光に誘われる虫のように歩いて行った。
アーケードには、平日の夜ということもあってか、それほど人は多くなかったが、それでも出張先で羽を伸ばしているのだろうか、関西弁とは違う言葉を話す会社員たちの声が響き渡り、十代か二十代前半ぐらいの男女のグループが目についた。
一部の店の灯りは消えていたが、居酒屋やガールズバーの客引きは、これからが本番なのか、通り過ぎる人に元気よく声をかけている。
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300字小説 第233回(ショートVer.)
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『訃報』
駅前第四ビルの辺りまで一緒に歩いて帰ったが、僕はカプセルホテルを探すと言い、そこで別れた。
終電に乗り遅れた会社員のような後姿で、零次さんは帰っていった。それが僕が零次さんを見た最後となった。
零次さんの訃報は警察からの電話で知った。いつものようにバイト先の社長の車で帰る途中だった。
携帯の着信を知らせる振動音が鳴り、画面を見ると登録していない相手からの電話だった。
下四桁が一二三四という変わった番号だったので、社長に断って通話ボタンを押した。
曽根崎警察署からだった。零次さんが殺され、関係者に対して順番に連絡を取っているということだった。
犯人はすぐに逮捕され、動機については取り調べ中だと教えてくれた。
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