体を絞るためにたまに泳ぎに行ってます。
家から施設まで十五分ぐらいかけて歩いていくのですが、その途中に川があってその橋を渡ります。
橋は瓦屋橋といって東横堀川にかけられています。東横堀川は南北に流れているのですが、南にいくとそのまま道頓堀へとつながります。
橋の中ほどに布団が山積みされ、小さなちゃぶ台とカセットコンロが置かれています。
通る時間によっては足元を紐でしぼった布団にすっぽりと収まり、顔の部分も覆われて眠っているホームレスがいることもあります。たぶん女性です。
この日は施設が始業する午前9時頃に通ったのですが彼女はすでにいませんでした。
鳩がやたらと多いなと思ったら、プラスチックの容器に液体状のものが入っていて鳩が群がっていました。
バリの鶏は自分で餌を探して毎晩家に戻り住人のためにタマゴを生み、最後は食べられてしまうのですが、ふとそれを思い出し、日本の鳩との違いを感じました。
日本とバリの違いよりも鶏と鳩との違いかも知れませんが。
プールで1キロほど泳ぎまた来た道を戻りました。
橋の横には金網のフェンスが設けられていて、そこに十本ほどの傘がぶら下がっていました。
ほとんどが透明のビニール傘で、骨が折れていて曲がっているものや布の部分がだらしなくずり下がっているものなどがありましたが、等間隔で整然と並べられています。
雨の日はその中の一本を気分に合わせて選ぶのでしょうか。
そんなにたくさん必要ないと思える光景は、なぜか自分に投影されていました。
僕の中の傘。
たぶんホームレスの彼女と同じように最後まで使うことがないものを大事に抱え込んでいるような気がしたのです。
何かを捨てると必ずその隙間に新しいなにかが入ってきます。
季節はずれの大掃除が必要なのかも知れません。
300字小説 第157回
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『土下座』
翌日、博史は宮田から引き継いだ佐藤と会うべく朝からアポを取り付けてその夜に訪問することとなった。宮田は太田の判断に不服そうな態度を見せながら朝礼後にそそくさと尼崎の現場に向かった。フルコミッションの宮田にとって客に家を引き渡して、会社に残代金を入金するという業務を完了しないということは見込んでいた報酬が無くなってしまうことになるからだ。
博史はいつものように堺市内の現場に朝から行って待機していた。監督の大山は現場の職人と打ち合わせをしていて事務所には橋本と二人だった。
「宮田さんはあの担当していた客に2回も土下座していたそうですよ。それも奥さんに!」橋本が携帯の画面を見ながらつぶやくように言った。
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